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紅羽、襲われる ①

Penulis: 紅城真琴
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-12 23:00:16

1日の終わり。

あーぁ、今日も忙しかったと1人ぼやきながら、私は借りている駐車場へと向かっていた。

日が長くなり、まだ周囲は明るい。

今日は公が当直だから、1人でゆっくりビールでも飲もうなんて考えながら、私は駐車場に近づいて行った。

そして、車が見えるところまで来たとき、足が止まった。

『山形紅羽』

真っ赤な字で、ただ名前だけ書かれた紙。

うわ、気持ち悪い。

一体誰だろう。

個人で借りている駐車場だから、病院の駐車場ほど管理も厳重ではない。

もしかして、翼のファン?

いや、まさかね。

さすがにそこまでは・・・でも、なくはない。

とにかく帰ろう。

帰って翼に相談しよう。

紙をはがし、タオルでフロントガラスを拭くと、私は自宅に向かった。

***

警察に通報しようかとも考えたけれど、思い止まった。

色々うるさく聞かれるのは好きじゃないし、嫌がらせメールや無言電話も以前からあった。

翼のファンに呼び出されたことだって、1度や2度じゃない。

そんなときでも、私はただ黙っている。

「あんた何様よ」

「翼くんはあんたなんか好きじゃないのよ」

「どっか行っちゃってよ」

中には手を上げそうな勢いで掴みかかってくる子までいるが、私は無反応を通した。

恋人でない以上、何を言われても平気だった。

だから、今更こんな嫌がらせに負けたりしない。

私はこんな性格だから、イジメには慣れている。

小学校の時から、時々イジメられた。

さすがに自分のかわいくない性格を変えようとした時期もあった。

周りのみんなに負けないように精一杯笑顔を作ったり、興味もないくせに話を合わせてみたり、似合いもしないのにおそろいの髪型にしてみたりと自分なりに努力はした。

でも、長くは続かなかった。

嘘をついて自分をごまかすことが苦しくなって、いつの間にか1人になっていた。

無視されるのも、物を隠されるのも、囲まれて小突かれることだって経験すみ。

張り紙一
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    その後再び宮城先生と話すことができたのは、4月から異動になったドクターやスタッフの歓迎会の席だった。 その日は私たち研修医も部長命令で全員参加したものの、飲み会の花形は赴任してきたイケメンな若手たち。宮城先生も中心から少し外れたところで中堅看護師達と座っていて、私もなんとなく向かいの席に着いた。さすがに医者の参加する飲み会だけあって料理もいつもより豪華だったため、ここぞとばかり私は箸を動かしていた。「お前は、注ぎに行かなくて良いの?」飲み会も中盤に差し掛かった頃、宮城先生の小さな声が聞こえた。「ええ、そういうのは嫌いなので」 「へぇ」と、何か言いたそうな顔。遠くの方では研修医仲間達がかいがいしく片付けやビールの追加を出しているし、夏美と翼はお姉さん看護師達や、若手スタッフに囲まれている。 こうしてみると、品の悪い合コンにしか見えないわね。***2時間ほどで、歓迎会もお開きの時間。「じゃあね、また明日」みんな気持ちよさそうに帰って行く。 何人かは2次会に行くみたいだけれど、私が誘われるわけもなく、ありがたく帰らせていただく。「オイ」 「はい」後ろから声がかかり、振り向くと宮城先生だった。「この間のお礼は?」ああ、そういえば。「いいですよ。どこ行きますか?」 「ラーメンは?」 「入るんですか?」 「ああ」私は無理だ。 歓迎会で、食べ過ぎてお腹いっぱい。 それに、「ごめんなさい。私、麺類苦手なんです」あの、ズルズル吸う感じが好きになれない。「ふーん、じゃあファミレスにするか?」 「はい」ファミレスなら食べられるものがあるから、大歓迎です。 ***なぜか焼き豚丼を頼んだ宮城先生と、ケーキセットを注文した私。「よく食べられますね」 「何で?」 「結構食べてましたよね?」 「悪いか?」 「いいえ」何なのよ、この威圧感。 普段の温厚さはどこにおいてきた?「先生、二重人格ですか?」決して悪口のつもりで言ったわけではない。 でも、あまりにも普段と違う。「お前はわかりやすく裏表がないな」 ちょっと意地悪な顔。「ええ。それをモットーに生きてます」 「医者になるくらいだから頭良いんだろうに、バカだな」 「はあ?」 「生き辛いだろう」 「まあ。そう

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    「おはよう」 「おはようございます」翌朝の病院のコンビニで、当たり障りのない朝の挨拶。私の視線の先にいるのは、宮城公(みやぎこう)35歳の内科医。 優しい口調と温厚な性格で、患者さんにも人気がある。 10年以上にわたって僻地医療に携わり、今では県内の若手医師のホープと言われている人だ。 そして、私の彼でもある。ん? レジに並ぶ公が、私を見ている。『今日もまたサンドウィッチとデザートなの?』って目が言っているけれど、好き嫌いの激しい私が食べられる物ってこれくらいしかない。テへへと笑ってみせると、仕方ないなあと公が肩を落とす。「あら、宮城先生」 そうこうしているうちに、ほらまた患者さん。「その後いかがですか?」 「はい、おかげさまで」 「季節の変わり目ですからね、気をつけてください。何かあれば受診してくださいね」 「はい、ありがとうございます」 患者さんは笑顔で立ち去った。こんな調子だから、公には普段からお見合いの話がよくくる。 もちろん、断ってくれてはいるけれど、そのうち断れないようなお見合い話がくるかもしれないな。***そもそも、私たちの出会いは2年前に遡る。 研修医のローテで内科を回ったときにお世話になったのが彼だった。 優し気な顔立ち、体格は中肉中背。身長は180センチで165センチの私とも良いバランス。元々かわいげがなくて、好かれるか嫌われるかのどちらかしかない私は、2年前の内科研修でも苦戦していた。 3ヶ月間の研修中、お局様のベテラン女医に捕まってしまったのだ。 本当なら愛想笑いでもしてかわいらしくすればいいのに、それがでない私は完全にロックオンされてしまい意地悪をされた。「カルテの整理と、診断書の作成を明日までに終わらせてね」 言い残して帰るお局様。 大量に残されたカルテと書類の束を見ながら、こんなの1人でできるわけないってわかっているのにと落ち込んだ。***その日の夜中に医局で1人、カルテの整理と診断書の作成。 どうせやってもケチつけられるとわかっていても、投げ出すことのできないのが意固地な私。その時、突然声をかけられた。「何してるの?診断書、何で1から作るの?」私のデスクに並んだ書類を見ながら、呆れた顔をする宮城先生。 一方、意味のわからない私は口をとがらせる。「1からじゃなくて

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   共に暮らす男、福井翼

    「ただいま」家に帰り、自分の部屋のリビングで、ソファーに倒れ込む。「おーい、酔い覚まし飲めよ」 玄関から翼の声がする。「はーい」私は冷蔵庫から翼のお母さんが送ってくれた漢方を取り出した。 うわー、これ苦手なのよね。 でも、明日の勤務のことを考えれば、ありがたいと思っていただきます。ゴックン。 うわ、やっぱり苦っ。「なあ紅羽、お前明日日勤だろー」またまた階段下から大きな声。 ッたく、うるさい。 でも、勝手に入ってこないのが翼だ。 あくまでもシェアハウスなんだから、必要以上に干渉したりはしない。「そうよ。だから寝るの」 「母さんがパンを買ってきてるから、食えよ」へ?言われてドアを開け、2階に上がったところにある踊り場スペースを見ると、紙袋にぎっしり入ったパンが置かれていた。「ありがとう、いただきます。お母さんにお礼言ってね」 「ああ、おやすみ」 「おやすみなさい」いつもありがとうございます。 お母さんは誰が食べているか知らないんだろうけれど・・・ 申し訳ないようで、とってもありがたい。***世間では、とは言っても同期や仲のいい友人の親しいごく一部だけれど、私たちが付き合っていると思っている。 飲み会も一緒に出かけるし、仕事で困ったときにはやはり翼に相談してしまうから、周囲から見れば私たちは恋人同士に見えるんだろう。 でも、違うんだなあ。 本当は、翼の女よけ。それだけの存在でしかない。 世間の常識的にこの関係が正しいのかどうかは別にして、私も翼も今の状態に満足している。 でなければ、大学時代から数えて7年もこんな生活を続けたりはしない。うーん、午後11時か。 ほどよく回ったお酒が気持ちいい。 これで明日が元気なら文句無しなんだけれど・・・ピコン 『ちゃんと帰ったか?』 それは毎日この時間にやってくるメッセージ。 私はイエスのスタンプを返信した。『明日勤務だろ、早く寝るんだぞ』 『分っています』 『ならいい。おやすみ』 『おやすみなさい』これが、毎晩の日課。 実は私には、付き合って2年になる彼がいるのだ。

  • 強情♀と仮面♂の曖昧な関係   同期の飲み会

    「カンパーイ」 盛り上がる店内。ここは最近評判のレストラン。 なかなか予約が取れないって噂なのに、誰かがコネを使ったのね。「おーい、ビールおかわり」 「こっちはハイボール」 「すいませーん、注文お願いしまーす」色んな所から声が上がる「はーい、お待ちください」店員さんも忙しそう。 そんな中、相変わらず大騒ぎしている若者達は一気飲みや訳のわからないゲームまで。 パッと見は、大学生にしか見えないけれど・・・「これでも医者なのよねー」 「あんたもね」すぐ隣から呆れた声が聞こえてきたから、私も次々とグラスを空けている隣の美女、夏美に突っ込みを入れた。「そういう紅羽(くれは)も、顔が真っ赤よ」自分は全く顔に出さないからって、夏美が笑ってる。「夏美とは違うの。一体どれだけ強いの」私だってお酒が弱い方ではないけれど、夏美が強すぎるのだ。 勤務後、夕方7時から始まった飲み会はすでに2時間以上がたち、みんなそれなりに酔っ払ってきている。 当然、私も夏美もかなり飲んでいるのだが・・・。***私、山形紅羽(やまがたくれは)は27歳の小児科医。 この春やっと研修医の肩書きがとれて、医師として歩き出したばかり。 今日は同じ大学の同期で、付属病院に就職したメンバーとの飲み会。 夏美は大学の同期で、私と同じ小児科医。 本当はお金持ち開業医の娘なのに、チョー現実主義者。 今だって、「もったいないから、ほら飲みなさい」と、良い所のお嬢さんとは思えない発言を繰り返している。「ほんと、黙っていれば美人なのにね」 「紅羽、やかましい」あら、聞こえてた。「こら紅羽、飲み過ぎだぞ」今度は、どこからともなく現れた翼が注意する。「はいはい、分ってます」福井翼(ふくいつばさ)は大学からの同期。 同じ病院の救命医として勤務している。 見た目は雑誌から飛び出てきたような、THE王子様。 顔が良くて、頭が良く、それで性格の良い奴ならモテないはずがない訳で、当然のように学生時代からかわいそうなくらい目立っていた。「飲み過ぎるなよ。介抱なんてごめんだからな」 耳元に口を寄せ、翼が小声でささやく。ッたく、不必要なまでにいい男。 ここまでくると、嫌みよね。「分っているわよ。自分の足でちゃんと帰ります。ご心配な

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